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一級建築士の年収はいくら?679万円の中身を構造設計一級建築士が有価証券報告書まで調べた

建築
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「一級建築士って、実際いくらもらえるんだろう?」

調べてみると「約680万円」「約550万円」と、サイトによって100万円以上ちがう数字が出てきます。
どれを信じればいいのか、余計に分からなくなりませんか。

先に正直に書きます。

私は一級建築士に合格するまで5年かかりました。
学科試験に4回挑戦し、設計製図試験は2回目でようやく合格。
その後、構造設計一級建築士になり、いまは工場や倉庫の構造設計をしています。

この記事では、公的な統計の数字を出典つきで並べたうえで、その数字が何を測っているのかを説明します。
そして統計に出てこない部分は、当事者の体感として正直に書きます。

結論から言うと、年収は「一級建築士かどうか」ではほとんど決まりません。
どこで、何を、どれだけの年数やってきたかで決まります。
その中身を見ていきます。


一級建築士の年収の全体像

ゼネコン・設計事務所・役所の3つの職場を前に考える建築士のイラスト

公的な統計では679.1万円

まず、いちばん確かな数字から見ます。

厚生労働省の職業情報提供サイト「jobtag」によると、建築設計技術者の平均年収は679.1万円です(全国、令和7年賃金構造基本統計調査を加工した数値)。
平均年齢は43.4歳、月間の労働時間は166時間となっています。

出典:厚生労働省 職業情報提供サイト jobtag「建築設計技術者」

ここで、ひとつ大事な前置きがあります。

賃金構造基本統計調査に「一級建築士」という職種はありません。
あるのは「建築設計技術者」という区分です。
意匠設計も構造設計も設備設計も、一級建築士も二級建築士も資格なしの設計者も、全部まとめて1つの職種として集計されています。

つまり679.1万円は、「一級建築士の年収」ではなく「一級建築士を含む建築設計技術者の年収」です。
ネット上の記事ではここが混同されがちなので、最初に区別しておきます。

なお、多くの記事はいまだに632.8万円という数字を使っています。
これは令和6年以前のデータです。
令和7年調査で679.1万円に更新されているので、この記事では新しいほうを使います。

求人サイトでは554万円

一方、求人ボックスの給料ナビでは、一級建築士に関わる仕事の平均年収は554万円です(2026年7月時点)。

679.1万円と554万円。125万円の差があります。

どちらも正しい数字です。
測っているものが違うだけです。

賃金構造基本統計調査は、実際に働いている人の賃金を国が調べたものです。
ベテランも管理職も含まれます。
一方、求人ボックスの数字は募集中の求人票の給与水準の中央値です。
求人は中途採用が中心なので、部長クラスの給与は出てきません。

統計は「いま働いている人」、求人サイトは「これから採る人」を見ています。
自分がどちらの立場かで、参考にすべき数字が変わります。

年収に幅が出る本当の理由

もっと踏み込みます。
jobtagには、所定内給与額(月額)の分布データがあります。

いちばん多いのは月額40.0〜44.9万円の層で10.8%。
次いで45.0〜49.9万円が8.3%、50.0〜54.9万円が7.5%です。

ただ、注目してほしいのはここです。
24万円台から55万円台まで、どの帯もおおむね5%以上を占めています。
つまり特定の金額に人が集中しているのではなく、広く散らばっています。

これが「平均年収」という言葉の限界です。
679.1万円という数字は、月給25万円の人と月給55万円の人をならした結果です。
どちらも実在します。

だからこの先は、平均ではなく何がその差を生んでいるのかを見ていきます。


勤務先別のリアル

先に言っておきます。勤務先別の「設計者の年収」を示す公的データは存在しません

「ゼネコンは650万円、設計事務所は600万円」といった比較表を見たことがあるかもしれません。

調べた結果を正直に書きます。
その数字に公的な裏づけはありません。
理由は4つあります。

  1. 賃金構造基本統計調査は職種別の統計で、勤務先別の内訳がありません。
  2. 上場企業の有価証券報告書には平均年間給与が載っていますが、これはその会社の全従業員の平均です。設計者だけの数字ではありません。
  3. 日建設計や日本設計といった組織設計事務所は非上場なので、有価証券報告書そのものがありません。
  4. 官公庁も同じです。
    総務省の地方公務員給与実態調査を確認しましたが、職種区分は一般行政職・技能労務職・教育職・警察職などの大きな括りで、「建築職」という区分がありません。
    自治体で建築を担当する職員は、一般行政職に含まれています。

民間も官公庁も、設計者だけを切り出した公的な年収データは存在しない。
これが調べた結論です。

その前提で、言えることを3つの層に分けて書きます。

層1:職種としての平均は679.1万円

基準線がこれです。
建築設計技術者として、全国平均679.1万円。
ここを出発点に考えます。

層2:会社・役所としての平均

ゼネコン大手4社(2026年3月期 有価証券報告書)

会社従業員数平均年齢平均勤続平均年間給与
鹿島建設8,959人41.2歳15.7年1,245万4,406円
大林組9,472人42.0歳15.9年1,239万3,648円
大成建設9,518人42.3歳17.0年1,191万134円
清水建設11,434人43.7歳16.1年1,043万1,000円

すべてEDINETで有価証券報告書の原典を確認した数字です。

数字だけ見ると「ゼネコンは1,000万円超え」に見えます。
でも、これは設計者の年収ではありません。

同じ有価証券報告書に、内訳が載っています。
たとえば鹿島建設の8,959人は、土木事業2,582人・建築事業6,086人・開発事業等291人の合計です。
大成建設なら土木2,584人・建築6,741人・開発193人。
土木も開発も営業も事務も、全部ならした数字です。

さらに注記にはこうあります。
「平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでいる」。
つまり残業代も賞与も入った額です。

もうひとつ。
清水建設だけ有報の表記が「千円」単位で、他3社は円単位です。
並べるときは注意が必要です。
また、清水建設は契約社員199人を除く11,235人の数字、大成建設は出向者を含めると在籍者9,652人と、各社で集計の土俵が微妙に違います。
100万円単位の差を細かく論じるのは、あまり意味がありません。

ただ、4社に共通する動きがあります。
前年度比で鹿島+5.1%、大林+8.7%、大成+12.6%、清水+5.9%。
全社そろって上がっています。
大成建設にいたっては1年で12.6%増です。

これは個別の会社の事情ではなく、業界全体で人の取り合いが起きているということだと思います。
実際、建築設計技術者の有効求人倍率は全国2.83倍(令和7年度、ハローワーク求人)。
1人に対して約3件の求人がある状態です。

官公庁の場合

先に書いたとおり、公的統計に建築職の区分はありません。
ただ、別の角度から分かることがあります。

石川県の公表資料を見ると、初任給は職種で分かれていません。
建築職として採用されても、一般行政職の給料表が適用されます。
令和7年4月1日現在で、大学卒220,500円、高校卒188,500円です(国はそれぞれ220,000円、188,000円)。

そして一般行政職全体では、平均年齢42.8歳、平均給与月額422,510円(諸手当を含む)。
都道府県平均は42.3歳で420,139円なので、ほぼ同水準です。

出典:石川県の給与・定員管理等について(令和7年度)

つまり官公庁では「建築職だから高い・安い」という差がありません。
民間とはっきり違う点です。
安定を取るか、専門性で上乗せを狙うかという選択になります。

層3:当事者として見てきたこと

ここからは統計に出てこない話です。
私が見てきた範囲のことなので、業界全体を代表するものではありません。
そのつもりで読んでください。

まず、どこに入るかはかなり運で決まります。

私がいまの会社に入ったのは、たまたま大学に直接求人が来ていたからです。
狙って選んだというより、そこに縁があった、というのが正直なところです。
同級生はゼネコンの施工管理に進んだ人が多かったと記憶しています。

勤務先別の年収を比べる記事はたくさんありますが、学生の段階で「ゼネコンは何万円、設計事務所は何万円」を見比べて進路を決めた人は、周りにあまりいませんでした。
求人が来たところ、話を聞いた先輩がいたところ、そういう理由で決まっていく面が大きいと思います。

同級生の給与を、私は知りません。

これは正直に書いておきます。聞いたことがありません。
なんとなく敬遠される話題ですよね。
友人同士でマウントを取るような形になるのは避けたい、という気持ちが私にはあります。

だからこの記事でも、「ゼネコンの設計は◯万円、設計事務所は◯万円」という書き方はしません。
そもそも当事者同士でも共有されていない情報を、外から正確に書けるとは思えないからです。

設計と施工管理では、忙しさの質が違います。

待遇の差というより、残業の出方が違うというのが体感です。

設計にも忙しさのピークはあります。確認申請を出すまでや、見積図をまとめるまでは相当なものです。
ただ、設計には「一旦ここまでの情報でまとめます」という線引きができます。
確認申請という締め切りがあるので、そこで一度、図書を固めざるを得ない。

施工管理は、その線引きが難しいと思います。

私が関わっている工場のような生産施設は、施工中に施主のニーズが変わることが少なくありません。
設計中に変わることももちろんありますが、施工段階では工期が動いています。
大きな変更なら施主と工期を調整することになりますが、それを言い出しづらい空気はあると感じます。

昨今は4週8閉所を目標に工期を組むようになってきました。
それでも、変更対応で残業が増えやすいのは施工管理のほうだと思います。

設計の側は、ピークさえ外せばずっと残業が続くわけではありません。
ただしこれは、1案件だけを担当していればの話です。
複数案件が重なれば、ピークも重なります。

年収の中身を、割合で書いておきます。

統計の679.1万円には、賞与も残業代も含まれています。
ここは実感として書いておきたいところです。

私の場合、年収のうち基本給が占めるのは半分強です。
残りは賞与と残業代で、その2つを合わせると4割を超えます。

つまり基本給だけを見ると、統計の数字よりかなり低く見えます。
求人票の「月給◯万円」と統計の「年収679.1万円」を単純に比べると混乱するのは、このためです。

そして、ここは注意が必要なところでもあります。
年収の半分近くが、基本給以外で成り立っているということです。
残業が減れば年収も減りますし、業績が落ちれば賞与も動きます。
働き方改革で残業が圧縮されれば、額面は下がります。
建築設計の年収を考えるとき、この構造は頭に入れておいたほうがいいと思います。

人手不足は、分野によってかなり違います。

有効求人倍率5.62倍という数字を見て、体感と照らしてみました。

いちばん足りていないと感じるのは設備設計です。
慢性的に人が足りないという話をよく耳にします。
設備の手が空かないことが、案件全体の進め方に影響する場面もありました。
構造設計については、同じような話はあまり聞きません。

足りていないと言われる分野と、そうでない分野があります。
統計の求人倍率は建築設計技術者をひとまとめにした数字なので、分野ごとの温度差までは見えません。


経験年数と年齢で、どう変わるか

年齢別の平均年収

建築設計技術者の年齢別年収グラフ。55-59歳の879.6万円がピーク、全国平均は679.1万円

出典:厚生労働省 職業情報提供サイト jobtag「建築設計技術者」(令和7年賃金構造基本統計調査の結果を加工して作成)
※公表数値をもとに筆者が作図

数字で見ると、こうなります。

年齢平均年収年齢平均年収
〜19歳351.97万円45〜49歳764.93万円
20〜24歳411.47万円50〜54歳808.41万円
25〜29歳550.97万円55〜59歳879.60万円
30〜34歳636.31万円60〜64歳743.18万円
35〜39歳710.14万円65〜69歳584.93万円
40〜44歳747.48万円70歳〜439.05万円

20代後半から30代前半の伸びが、いちばん大きいです。
25〜29歳の550.97万円から30〜34歳の636.31万円へ、85万円上がっています。
ここは実務経験が一気に積み上がる時期で、一級建築士を取る人が多いのもこの年代です。

一方、40代はほぼ横ばいです。
40〜44歳が747.48万円、45〜49歳が764.93万円。
5年かけて17万円しか動きません。

800万円を超えるのは50〜54歳から。
ピークは55〜59歳の879.60万円です。
そして60代で急に落ちます。
役職定年や再雇用の影響だと思います。

「40代で800万円」という記事を見かけますが、統計上はそうなっていません。
実際は50代前半からです。
10年近くずれています。

経験年数で見ると、また違う景色になります

同じjobtagに、経験年数別のデータもあります。

経験年数所定内給与額(月額)
0年29.07万円
1〜4年31.57万円
5〜9年36.07万円
10〜14年41.03万円
15年以上48.40万円

ここは単位が違うので注意してください。
年齢別は「年収」で賞与も残業代も入っていますが、こちらは「所定内給与額」の月額です。
賞与も残業代も入っていません。
基本給に近い数字だと考えてください。

そのうえで見ると、0年の29.07万円から15年以上の48.40万円へ、1.67倍になっています。
年齢別の伸び方と大きくは変わりません。

「年収1000万円」は、どこにいるのか

「一級建築士 年収 1000万」で検索する人は多いと思います。
正直に答えます。

建築設計技術者の所定内給与額の分布グラフ。月額40.0-44.9万円が10.8%で最多、100万円以上は1.0%

出典:厚生労働省 職業情報提供サイト jobtag「建築設計技術者」(令和7年賃金構造基本統計調査の結果を加工して作成)
※公表数値をもとに筆者が作図

所定内給与額が月額100万円を超えているのは、全体の1.0%です(100.0〜119.9万円が0.9%、120.0万円以上が0.1%)。
100人に1人です。

年齢別で見ても、ピークの55〜59歳で879.60万円。
平均値としては、どの年代も1000万円に届きません。

ただし、届いている人は確実にいます。
そしてどこにいるかも、はっきりしています。

前の章で見たゼネコン大手4社。
鹿島建設1,245万4,406円、大林組1,239万3,648円、大成建設1,191万134円、清水建設1,043万1,000円。
しかも平均年齢は41.2歳から43.7歳です。

つまり40代前半で1,000万円を超える層が、まとまって存在します。
統計全体では1.0%でも、その1.0%は散らばっているのではなく、特定の場所に集まっています。

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
年収は資格で決まるのではなく、どこにいるかで決まります。
一級建築士を取ったから1,000万円になるのではなく、1,000万円の場所にいる人の多くが一級建築士を持っている、という順序です。

分布が語るもうひとつのこと

さきほどのグラフを、もう一度見てください。

月額24万円台から55万円台まで、どの帯もおおむね5%以上を占めています。
最多の40.0〜44.9万円でも10.8%しかありません。
建築設計技術者の給与には「標準」と呼べるような山がありません。

同じ職種、同じ資格、同じ年数でも、これだけ散ります。
平均679.1万円という数字は、この散らばりをならした結果でしかない、ということです。


構造設計という選択肢

建設中の鉄骨の前で図面と納まりを見比べる構造設計者のイラスト

一級建築士383,923人のうち、構造設計一級建築士は10,410人

まず、数字を出します。

資格登録者数
一級建築士383,923名
構造設計一級建築士10,410名
設備設計一級建築士6,140名

出典:公益社団法人 日本建築士会連合会「建築士登録状況」(令和7年4月1日現在)

一級建築士に対して、約2.7%です。
100人の一級建築士がいて、構造設計一級建築士は3人もいません。

この数字を最初に出したのには理由があります。

「構造設計一級建築士の年収は700万〜1,200万円」といった記述をネットで見かけます。
私も調べました。
出典をたどると、転職エージェントのサイトに行き着きます。
公的な統計に、構造設計一級建築士だけを切り出したデータは存在しません。

だから年収の話をする前に、証明できる数字から始めます。
「高収入です」は証明できませんが、「10,410人です」は証明できます。

設備はもっと少ない。そして現場の実感と一致しています

表をもう一度見てください。
設備設計一級建築士は6,140名です。
構造よりさらに4,000人以上少ない。

この数字を見たとき、私は現場の感覚と合っていると思いました。

前の章で、人手不足は分野によって違うと書きました。
いちばん足りていないと感じるのは設備設計です。
慢性的に人が足りないという話をよく耳にしますし、設備の手が空かないことが、案件全体の進め方に影響する場面もありました。
構造設計については、同じような話はあまり聞きません。

登録者数と現場の実感が一致しています。
これは偶然ではないと思います。

そして、ここに大事な示唆があります。

有効求人倍率2.83倍という統計は、建築設計技術者をひとまとめにした数字です。
意匠も構造も設備も全部入っています。
だから分野ごとの温度差は見えません。

「建築設計の仕事は人が足りない」という一般論の中には、足りていない分野と、そこまででもない分野が混ざっています。
自分がどこに身を置くかを考えるとき、平均の倍率より、この内訳のほうが役に立つと思います。

なぜこれだけ少ないのか

受験資格が理由です。

構造設計一級建築士になるには、一級建築士として5年以上、構造設計の実務経験が必要です。
一級建築士を取ってから、さらに5年です。

私の場合で言うと、一級建築士の合格までに5年かかりました。
学科試験に4回落ち、うち2回は足切りです。
そこから構造設計の実務を積んで、構造設計一級建築士になりました。

つまり建築士を目指し始めてからの合計年数は、かなりのものになります。
この年数が、そのまま10,410人という数字の理由です。

一級建築士は毎年3,000人以上が新しく生まれます。
構造設計一級建築士は、そこからさらに5年待たないと候補にすらなりません。
増えようがない構造になっています。

「少ない」が意味すること

建築基準法では、一定規模以上の建築物について、構造設計一級建築士による設計または法適合確認が義務づけられています。
つまりこの資格がないと進まない仕事が、制度として存在します。

そして、その資格を持つ人が全国に10,410人です。

先に見たとおり、建築設計技術者の有効求人倍率は全国2.83倍。
1人に対して約3件の求人があります。
そのうえで、法律上どうしても必要な資格の保有者が1万人しかいない。

年収が高いかどうかは公的に証明できませんが、代わりが利かないことは制度で決まっています。
これは年収レンジの数字より、はっきりした事実だと思います。

転職エージェントが示すレンジについて

そのうえで、参考として書いておきます。

転職エージェントのサイトでは、構造設計一級建築士の年収レンジとして700万〜1,200万円という数字が提示されています。
公的統計ではないので、あくまで「求人を扱っている会社が出している目安」として受け取ってください。

ただ、この数字にはひとつ根拠らしきものがあります。
建築設計技術者の年齢別平均年収を見ると、構造設計一級建築士になれる年代(一級建築士取得+5年なので、早くても30代後半)の平均は710万〜765万円です。
レンジの下限700万円は、職種の平均とほぼ重なります。

上限の1,200万円のほうは、大手ゼネコンの平均年間給与(1,043万〜1,245万円)と重なります。
つまりこのレンジは「職種の平均から、大手企業の水準まで」を示していると読めます。
そう考えると、極端に外れた数字ではありません。

私がこの道を選んだ理由

選んだというより、乗っかりました。

正直に書きます。
構造設計を強く志望して入ったわけではありません。

会社からの募集が構造設計でした。
私は構造系の研究室に所属していたので、それに乗っかった、というのが実際のところです。

数字を扱うのは得意なほうでした。
でも入ってみると、右も左も、歩き方も分からない状態でした。
学生時代に学んだことと、実務で求められることの距離は想像以上でした。

若い人にはなかなか届かない言葉だと思いますが、ひとつだけ書いておきます。
大学には、目的を持って行ったほうがいいです。
私は遊んでばかりでした。
それでも何とかなりましたが、何とかするのに余計な時間がかかりました。

工場や倉庫にたどり着いたのは、地域柄です。

生産施設を希望して選んだわけでもありません。

北陸は工場が多い地域です。
この会社だからということもあるかもしれませんが、体感で5割ほどは工場関係の建屋を担当しています。
金沢で構造設計をやっていると、自然とこの分野が中心になります。

前の章で、年収は「どこで、何を、どれだけの年数やってきたか」で決まると書きました。
その「どこで」は、自分で完全に選んだものとは限りません。
私の場合、地域が分野を決めた面がかなりあります。

構造設計一級建築士を取って、給与はほとんど変わりませんでした。

ここは、この記事でいちばん正直に書きたいところです。

資格を取っても、給与はほとんど変わりませんでした。
変わったのは責任の重さです。

実を言うと、これは一級建築士を取ったときにも同じ経験をしています。
先輩社員からちらっと聞いてはいました。
そのとおりでした。だから構造設計一級建築士のときは、案の定という感じでした。

もちろん、これは私の会社での話です。
他社がどうかは分かりません。

外からの見られ方が変わったかどうかも、正直わかりません。
聞いたことがないので。

この記事の結論と、私自身の経験は一致しています。
年収は資格で決まりません。
私は10,410人しかいない資格を持っていますが、それで給与が跳ねたわけではない。
資格が効くのは、その資格がないと入れない部屋があるという意味においてです。

「代わりが利かない」ことの裏側。

休めないのではないか、とよく聞かれます。
半々、というのが答えです。

規模の大きい案件は2人以上の体制で担当することがあります。
担当者間でバランスを取れば、休めないことはありません。
困るのは規模の小さい案件です。
1人体制になるので、どうしても休みづらくなります。

ただ、これは工夫でかなり変わります。
自分の作業メモをしっかり揃えておくことです。
どこまでやったか、どこに保管されているか、今後のアクションは何か。
これが揃っていれば、休みやすくなります。
上司が見てはいますが、細かいところまでは把握していません。
結局は、上司とのコミュニケーション次第だと思います。

それと、全部が自分に回ってくるわけではありません。
社内にはある程度の人材がいます。
「10,410人しかいない」という数字だけを見ると、一人で全部背負うようなイメージを持つかもしれませんが、実際はそうではありません。

5年かかったことが、残したもの。

学科4回、足切り2回、合格まで5年。
この遠回りが仕事に生きているかと聞かれると、技術的な面ではよく分かりません。

ただ、ひとつだけ確実に言えることがあります。
諦めが悪くなりました。

それと、思いがけない発見もありました。
製図試験は、資格試験にしては珍しく楽しかったです。
絵を描くことで空間をイメージする作業が、自分には合っていたのだと思います。
空間認識能力、というのでしょうか。

いまも鉄骨や鉄筋の納まりを考えるのは楽しいです。
頭の中で組み上げて、成立するかどうかを確かめる。
あの感覚は、製図試験で味わったものと地続きだと思います。

5年かけて分かったのは、自分が何を面白いと思うかでした。
資格そのものより、そちらのほうが長く効いている気がします。

これから構造設計を目指す人へ。

ひとつだけ伝えるとしたら、これです。

現場で頼りにされます。
意匠や設備の設計者より、そう感じる場面が多いと思います。

もちろんスケジュール厳守が大前提です。
ただ、私の見てきた範囲では、構造設計者はスケジュールにルーズな人が少ない傾向があります。
計算と検証の積み重ねで仕事が進む分野なので、そういう気質の人が集まるのかもしれません。

給与が劇的に上がる道ではありません。
それは私自身が証明してしまっています。

でも、代わりが利かない仕事で、現場から頼られて、納まりを考えるのが面白い。
それが性に合うなら、いい道だと思います。

一緒に頑張りましょう。


年収を上げるには何を変えればいいか

大きな地図の前で大都市と地方都市を見比べる建築士のイラスト

ここまでで分かったことを整理すると、年収を動かす要素は4つあります。
資格、スキル、勤務地、そして転職です。
順に見ていきます。

①資格をとる

一級建築士を取ること自体は、年収を直接押し上げるわけではありません。
前の章で書いたとおり、順序が逆だからです。

ただし、入口としては効きます。
一定規模以上の設計は一級建築士でないとできないので、持っていないと就ける仕事の範囲が狭まります。
年収の天井が資格で決まるというより、資格がないと入れない部屋があるという感覚に近いです。

その先の上乗せを狙うなら、構造設計一級建築士や設備設計一級建築士です。
登録者数10,410名・6,140名という希少性が、そのまま交渉材料になります。

②スキルを広げる

統計には出てきませんが、はっきり言えることがあります。
分布の散らばりを作っているのは、資格ではありません。

同じ一級建築士でも、月額24万円台の人から55万円台の人まで、どの帯にも5%以上います。
資格が同じで、これだけ違う。
その差を作っているのは、扱える建物の種類、任される規模、設計以外にできること、といった中身の部分です。

③勤務地を変える

ここは数字がはっきりしています。

平均年収有効求人倍率
全国679.1万円2.83倍
東京都759.0万円3.39倍
石川県640.8万円5.62倍

出典:厚生労働省 職業情報提供サイト jobtag「建築設計技術者」

年収だけ見れば東京です。石川県との差は約118万円あります。

でも、もうひとつの数字を見てください。

建築設計技術者の有効求人倍率の比較グラフ。全国2.83倍、東京都3.39倍、石川県5.62倍

出典:厚生労働省 職業情報提供サイト jobtag「建築設計技術者」(令和7年度)
※ハローワークに提出された求人のみを対象とした数値です
※公表数値をもとに筆者が作図

石川県の有効求人倍率は5.62倍。全国の約2倍で、東京都より高いです。

私は金沢で働いています。
数字を見て、体感と合っているなと思いました。
地方では建築設計をできる人が本当に足りていません。
1人に対して5件以上の求人がある状態です。

年収は東京が上。
でも、求められ方は石川のほうが激しい。
これが統計から読み取れる構図です。

ただし、この数字には但し書きが要ります。
有効求人倍率はハローワークに提出された求人だけを対象にしています。
東京は民間の転職サイトやエージェント経由の求人が多いので、この数字だけで「東京は求人が少ない」とは言えません。
地方はハローワークの比重が大きい、という事情も入っています。

もうひとつ。
石川県の平均年収640.8万円は、全国平均679.1万円との差が約38万円しかありません。
「地方だから大幅に安い」という一般的なイメージとは、だいぶ違います。
生活費まで含めて考えると、手元に残る額は逆転することもあると思います。

なお、公務員を考えている方向けに補足すると、石川県の場合は勤務地によって地域手当の支給率が変わります。
金沢市は令和7年度が3%で、令和8年4月から4%へ引き上げ。
内灘町は2%から1%へ引き下げです。
同じ県庁職員でも、配属先で手取りが変わります。

出典:石川県の給与・定員管理等について(令和7年度)

④転職する

いま、追い風が吹いています。

ゼネコン大手4社の平均年間給与は、前年度比で鹿島建設+5.1%、大林組+8.7%、大成建設+12.6%、清水建設+5.9%。4社そろって上がっています。
大成建設は1年で12.6%です。

これは個別の会社の事情ではありません。
業界全体で人が足りていないから、給与を上げてでも確保しようとしている。
有効求人倍率2.83倍という数字が、その裏づけです。

動くなら、市場が売り手に傾いているうちです。
ただし前の章で書いたとおり、有価証券報告書の平均年間給与は会社全体の数字です。
転職先を選ぶときは、その会社の平均ではなく、自分が就く職種・部門の条件を個別に確認してください。

「建築士の年収は低い」と感じている人へ

最後に、この記事にたどり着いた方の中には「思っていたより低い」と感じている人もいると思います。

統計の数字をもう一度見てください。
建築設計技術者の平均年収は679.1万円です。

国税庁の民間給与実態統計調査(令和6年分)によると、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は478万円。
パート・アルバイトを除いた正社員に限っても545万円です。
建築設計技術者の679.1万円は、正社員の平均を134万円ほどうわまわっています。
少なくとも、低い職種ではありません。

出典:国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」

それでも低いと感じるなら、たぶん原因は平均ではなく散らばりのほうです。
月額24万円台の人と55万円台の人が同じ職種にいて、自分がどちらに近いか。
問題はそこだと思います。

そして散らばりを作っているのは、この記事で見てきたとおり、勤務先・年数・専門性・勤務地です。
どれも、動かせる要素です。


まとめ:年収は資格ではなく、置かれた場所で決まる

この記事で見てきたことを整理します。

統計で言えること

  • 建築設計技術者の平均年収は679.1万円(全国、令和7年)
  • ピークは55〜59歳の879.60万円。800万円を超えるのは50代前半から
  • 月額100万円超は全体の1.0%
  • 給与は月額24万円台から55万円台まで広く散らばっていて、「標準」と呼べる山がない
  • 一級建築士383,923名に対し、構造設計一級建築士は10,410名(約2.7%)
  • 有効求人倍率は全国2.83倍。石川県は5.62倍で全国の約2倍

統計では言えないこと

  • 勤務先別の「設計者の年収」。民間も官公庁も、公的なデータは存在しない
  • 構造設計一級建築士だけの年収。公的統計はない

そして、この記事の結論です。

年収は「一級建築士かどうか」ではほとんど決まりません。
同じ資格を持つ人の給与が月額24万円から55万円まで散らばっている時点で、資格では説明がつかないからです。

決めているのは、どこで、何を、どれだけの年数やってきたかです。

私は一級建築士に5年かかりました。
学科4回、足切り2回。
決して要領のいいほうではありません。
それでも構造設計という分野を選んで、生産施設という領域で続けてきたことが、いまの立ち位置を作っています。

資格は入口です。
そこから先は、自分で選んだ場所の話になります。


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一級建築士の試験そのものについては、こちらに書いています。
学科4回・製図2回、合格まで5年かかった記録です。

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